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姫春蝉が見えない訳

小太郎

 今年も、国の天然記念物である片庭の姫春蝉(ひめはるぜみ)の鳴き声が聞かれたようだが、それにまつわるお話を。


 昔、弘法大師が徳蔵(七会村)の長者屋敷に立ち寄った。長者には徳蔵姫という、たいそう美しい娘がいた。娘は立派な行いをする大師に恋をするようになった。

それを察した大師は、夜、みんなが寝静まった後に、そっと徳蔵を出て行った。

 朝になって、大師が去ったことを知った姫は、急いで大師の後を追うが、追いつくことが出来ずに片庭までやってきた。そこにあった高い木の上に登り、辺りを見回したが、大師の姿を見つけることはできなかった。姫は悲しみのあまり泣き出し、その声はだんだん大きくなり、いつまでも泣くうちに、蝉の姿に変わってしまった…。

 これが、姫春蝉のいわれである(『笠間の民話(上)』より)。


 蝉の姿は、今もなかなか見ることができないが、それは、姫が蝉に変わった自分の姿を恥じて、その姿を決して人に見せないようになったからだという。

 姫の気持ちを察して、私たちも、その声だけを楽しむようにしたい。






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