夏にふさわしく、仏ノ山峠の話をお届けしたい。
笠間と栃木県の茂木の間にある峠は、昔は大変寂しいところだった。
その近くに、ある男が娘と二人で暮らしていた。
男は腕のいい猟師だったが、いつのころからか獲物が減り、
暮らしはどんどん貧しくなっていった。
そこで男は、ふとした気の迷いから、
峠を通る旅人を襲い、金品を巻き上げるようになってしまった。
娘はこれを恥じ、悲しみ、
やめてほしいと男に何度も頼んだが、聞き入れてくれなかった。
そんなある日、男が峠で身を隠していると、笠を深くかぶった旅人が通りかかった。
男は鉄砲を放ち、旅人を殺してしまった。
そして、その顔を確かめたところ、何と、その旅人は娘だった……。
男は青ざめ、嘆き、悲しんだ。
娘が男に盗みをやめてもらうためにとった決死の行動だったのだ。
それから、男は足を洗い、
自分が手にかけた旅人と娘の霊をなぐさめるために、
峠近くに二つのお堂を建て、
明け方は朝日が当たるお堂で、
夕方は夕日がさすお堂でお経をとなえるようになった。
そこで、これらのお堂は朝日堂、夕日堂と呼ばれるようになった。
この話を、夏休みに仏ノ山峠を通るたびに聞かされた。
今も、朝日堂、夕日堂の近くを通るときは、娘のために手を合わせる気持ちになる。
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